緊急事態宣言も発令間近、家でできることをお探しの方も多いことでしょう。中には、パソコンでWEBなどのデザイン制作に挑戦し、あわよくば副業にとお考えの方もいるかもしれません。
デザイナーは在宅でも可能な仕事のひとつです。でも、実際「デザイナー」の仕事の実態をきちんと知っている人は多くありません。そもそも「デザイン」とは何でしょうか?趣味でイラストを描くのとはどう違うのでしょうか?
私たちは日常、様々な場面でプロのデザイナーの仕事を目にします。WEB、紙、建築など様々な分野で使われる「デザイン」という言葉の意味、そしてプロとアマチュアのデザインの違いを改めて聞かれると、ほとんどの人はなんとなくしか答えられないのではないでしょうか。
こうおっしゃるのは、ご自身もプロのグラフィックデザイナーであり、デザインについて教えるべくリアルの教壇に立ちながらもブログやTwitterで発信を続けているデザイン講師ブロガーのセッジさん。
今回は、セッジさんに改めて「デザイン」について教えて頂こうと思います。
デザインの思考とは?「デザイン」しながら私たちは生活している
「人間が作るモノには、デザインの思考が宿る」という文章自体、少しわかりにくいと思われる人も多そうです。デザインの思考とは何なのでしょうか?
ものづくりと全く関係ない職業の方も、生活上で何かを「デザイン」しているのでしょうか?
たとえば、お弁当を作る手順を考えてみましょう。
・完成形のお弁当を思い浮かべる
「持ち運びやすくて、栄養バランスのいいお弁当を作りたいな」・手持ちの食材を確認し、必要ならそろえる
「おにぎりに、ほうれんそうのお浸し、きんぴらごぼう…りんごも!」・手順を考えて、調理して完成
「時間がないから前の夜に食材の下ごしらえをしておこう」
この手順を組み立てているのが、実はデザインの思考なのです。
デザインというのは、突き詰めると「自分のなかにも他人のなかにもある課題。その課題を解決していくためにどうしていけばいいのか組み立てていくこと」ということ。
セッジさんの職業であるグラフィックデザイナーという言葉でいうなら、次のように考えられます。
グラフィック(写真やイラストを、主に紙やWEBなどで見える表現として)
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デザイン(目的を果たすために組み立てていく)
つまり「見える表現」を通じて、「課題解決を果たす」のがグラフィックデザイナーという仕事だといえそうです。
デザインの思考で「今」をとらえる:社会の仕組みや人を観察しよう
さらにセッジさんには、デザインの思考をどのように日頃使っていくといいのかも教えていただきました。
今の情勢では例えば、コロナウイルスの感染拡大でみんなストレスを感じやすくなっているわけですが、「ストレスを感じにくくするためにはどうしたらいいのだろう?」と課題に向き合う思考もデザインの思考と言えます。
家にいるのが落ち着かない人は、なぜ落ち着かないのか、考え方の根本となる理由をしっかり考えてみると改善していく方法が見えてきます。「運動できないのがしんどい」なら室内でできる運動を始めればいいですし、「好きな旅行ができないのが辛い」なら旅行系Youtubeなどで気を紛らわせると楽になるかもしれません。ビジネスに不安があれば、ブログを書くなど発信に注力していくこともできます。
社会が混乱していくと、デマもたくさん発信されていきます。インフルエンサーと言われる人たちの意見も様々です。その中で、相手が解決しようとしている課題は何なのか、きちんと意図を考えていく必要があります。 「社会をよりよくしたい」意図の発信もあるかもしれませんが、「混乱を見て楽しみたい」といった意図もありうるからです。
いわゆるマネタイズも同じです。どんな商品・サービスにも意図があるので、きちんと自分の利益を考えたデザインの商品・サービスなのかを知らないと、買った後で後悔することもあるでしょう。
デザインは、ビジネスでいう「三方よし」と考え方が近く、相手と社会があってこそのものです。作品を通じて、自分もまわりも社会もみんな得をしている状態を叶えられるのがデザインの理想ですね。
よいデザインに必要なもの:「かっこいい」だけでは意味がない
「デザイン」の考え方がだんだんわかってきましたが、やはり目に見える作品の方がイメージしやすいですね。そこで、セッジさんに「よいデザインと悪いデザイン」について事例を挙げて頂きました。
非常口のマークは、日本のグラフィックデザイナー太田幸夫氏が作られたデザインです。日本から世界に広がり、国際規格にまでなりました。イラストだけで意味が通じるので、世界のどこにいても言葉が通じなくても、災害時にはすぐ非常口を見つけて逃げることができます。
逆に、かっこいいけれど分かりにくかったり使いにくかったりするデザインは、悪いデザインと言えます。例えば英語でLやRと書いてあるとかっこいい感じがします。でも英語に慣れていないと、右なのか左なのか混乱する人も多く不便です。説明書きを読まないと理解できないようなデザインは本末転倒と言えるでしょう。
もちろん見た目も大事ですが、デザインでは「目的を果たすためにどうすればいいか」がさらに重要です。道具なら使う人にとって使いやすい、読み物なら読者にとって読みやすいといった目的をしっかり果たすデザインを作るのがデザイナーの仕事です。
デザイナーの仕事をイメージするとき、アーティストの仕事とごちゃごちゃに考えている人が多いように思います。デザインとアートの違いは、「誰」のためにものを作るのかということ。明確に違うんです。
アート:自分がよいと思うもの、感じたものを表現すること
デザイン:自分よりも他人の意図を考えて、代わりに表現すること
ようは、デザインは相手ありき、アートは自分ありきということですね。
もちろんアーティストも、自分の絵を見てくれる人や音楽を聴いてくれるファンのことを考えるでしょう。ただ、軸は自分の世界をどう伝えるか。一方、デザイナーは優先するものが違います。他人がどう見てどう使うかを先に考える仕事です。そして、自分が表現したいことよりも「他人の考え」を軸に作品を作ります。
アートとデザインと言われると難しい感じがしますが、例えば「なんとなくものを作ってみたい」だけだとアートで、「友だちが喜んでくれるものを作りたい」だとデザインになっていくわけですね。相手のことを知り、考えながら、喜んでくれるものを作るわけです。
特にデザインをいずれ仕事にしてみたい人は、人がどんなことを考えて求めているのかを観察しながら、技術を身につけていくといいでしょう。
グラフィックデザインをやるならAdobe?:「仕事でデザインする」ということ
グラフィックデザイナーとしてセッジさんが使っていらっしゃるのはAdobe社のIllustrator(イラストレーター)やPhotoshop(フォトショップ)。 Twitterの発信やブログでも、Adobeのソフトの使い方をたくさん解説されています。
イラストを描いたり、写真を加工したりといったソフトは他にもたくさん、フリーソフトも含めてありますが、セッジさんは仕事としてデザインをしたい人にはAdobeのソフトを強くお勧めされています。
下書きにAdobe以外のソフトを使うことはプロであるセッジさんでも多いそうですが、仕事でデザインをしていく場合、「Adobeを使えること」がお客様から求められるといいます。
個人のお客様からだけ受けるのであれば、まだ問題は少ないのですが、いずれ仕事として広告代理店や印刷会社とのやりとりも考えていくのなら、Adobeソフトの形式でお仕事を納品してほしいと言われることがほとんどです。「デザイン・イラストの納品形式が指定される理由」 で詳しく述べている通り、指定の形式でなければお客様がファイルを開くことができませんし、仮にAdobeソフト用にファイル形式を変換できたとしても、変換の過程で色や線がきちんと再現しない危険性があります。
最近はフリーや安価なソフトなどを使って様々なデザインをする人が増えてきたようです。楽しむだけなら何の問題もありませんが、仕事にしていくなら厳しい。わかりやすいトラブルを挙げるとすれば、たとえばカラー設定の問題が起きます。WEBと紙印刷とでは、使うべき色の系統が違い、それぞれRGBとCMYKといいます。フリーソフトだと印刷に適したCMYKではほぼ対応していないため、お客様が印刷をしたい場合に最適なデザインが提供できないのです。一方、Adobeソフトで作っていればお客様に合わせて両方のカラーに対応できます。
WEBで完結する仕事をすればいいと思われるかもしれませんが、印刷物がなくなるわけではありませんし、全部の調整を印刷会社に任せるというのはプロとしては困りますよね。印刷会社の方々も、調整が必要ない完全原稿を求めていらっしゃいますし。
仕事でデザインをするなら場合、ひとりでは完結しません。完成して納品して終わりではないのです。納品後、印刷されたり、WEBで使われたり、お客様の使いやすいようにしてあげる必要があります。デザインの考え方は「他人が軸」ですから、自分がよければいいというのはデザインとしては違いますよね。そこまで考えると、お勧めのソフトを聞かれたらAdobeって話になるんです。
Adobeソフトの使い方を学ぶには?教材の選び方
じゃあAdobeのソフトを学んでみようと思っても、機能が豊富な分、学び方にも迷います。本や動画といった様々な教材がありますが、デザイン講師の視点からセッジさんに教材の選び方を伺ってみました。
セッジさんが教えている時にも、文章だと細かい操作がわからず、思うようにならないと困る生徒が多かったそうです。そこで、実際に画面を動かしているところを見せたところ、一気に理解してもらいやすくなったといいます。
セッジさんご自身も動画教材を販売されていますが、講師役だけではなく生徒役を登場させることによって、「会話の掛け合い」を取り入れているそうです。生徒役とのやりとりに共感しながら、リアルで授業を受けている感覚になれる動画教材を目指したそうです。
外出の自粛が必要な情勢下で在宅でも活かせるデザインスキルを磨いていくと、副業などを視野にいれて、今後役立ちそうです。ちなみに、セッジさんの動画教材を見て学んだ方は、Twitterのヘッダーやブログなどに使うWebサイト素材を自分で作ることができるようになります。
コロナの影響で家に引きこもる必要があるからこそ、普段なかなか取り組めないスキルアップに挑戦するにはちょうどいい時期とも言えます。セッジさんの「ゼロから学べるイラストレーター&フォトショップ初心者講座動画」も、今だけ通常2800円のところを1500円で販売されているそうです。
社会が混乱している最中だからこそ、デザインの思考を活かしながら、未来のための積み上げをしていきたいところですね。
取材協力:デザイン講師ブロガーセッジさん(Twitter・Blog)
(本記事は、HPリニューアル記念企画にて作成させていただきました(現在は受付終了しております))